中に入った私は大きく息を吸った。

「…香奈さんか…。」

綺麗な人だった。
でも、樹さんなら当たり前か。
綺麗な容姿に落ちついた性格、昨日の私への対応も考えたらきっと優しい人だ。
眼差しだって優しい。
私がさっき居づらいことも察しての言葉だろう。

でも、どうして樹さんはあんなにもつらそうに…。

「…ダメ。所詮は私も他人なんだか、関わり過ぎちゃダメ。」

首をぶんぶんと横に振って、私は部屋の中に入った。
昨日にも増して私の部屋は何もない。
その時気がついた。

「…しまった…。」

ついいつもの癖で、まっすぐ帰ってしまったのが余計に悪事を招いた。
引っ越ししたばかりで、食べ物は何もない。
買いだしにいかなきゃと今日の朝あれだけ確認したというのに。

「…まずいよね…。」

こればっかりはどうしようもない。
私が、玄関のドアに手をかけた時だった。