「魚が空を泳ぐこと、信じた方が、人生が輝いて見えるんだよ」



子供は子供のままで夢見たネバーランド。答えはいつだって用意されていて、世界は愛に満ちていて、だから魚も空を飛べるんだって。

「嗚、でも、無理みたいだ」


奴等はそれを許さない。少年は自らの掌に眼を落とす。ぼとり。染み付く様な黒い視線。同時に郁は胸の奥が鳴く声を聞いた。彼の、か、自身のかは不明瞭だが。

居てもたっても居られなかった。気付けば少年の右手を握っていた。そして、次の瞬間には色を亡くした世界から飛び出していた。黒く塗り潰されたあの絵を置き去りにして、廊下を駆け抜ける。光が飽和した廊下で、足音だけを反響させる。鳥篭は口を開けっ放しに、主の居なくなった其処に静寂を呼び込んでいる。


階段を駆け下り、また廊下を走り、ロビーを突き抜けて教務室の角を左に曲がり、古ぼけた屋外プールの壊れたフェンスの穴を潜る。コンクリートのプールサイドに二人して制服の儘、息を乱して辿り着く。夏だからか、綺麗な青が揺らめいていた。