「ごめ、」

「何が。君はきっと向こう側にいるんでしょ」



向こう側、という言葉に郁は視線を上靴に落とす。排他的な台詞に無機質な白を感じて、眉根を寄せる。嫌われたって平気な人間なんて本当はこの世に居ないんだ。心臓が妙に萎縮して、気まずい空気に息を潜める。

少年は静寂に足音を落としてキャンバスの前に立った。すると、必然的に後ずさりする郁。お前の居場所はない、と教室という名の鳥篭が責め立てる様に軋んでいる。



「あの、でも」


其の絵はすごいとおもいます。

精一杯吐き出した言葉が、彼の背中の白に、丸められて投げかけられて、色を持って小さく弾けた。そう、と無関心を装って吐き出された科白は喜色を含んでいた。

居場所が、ほんの少し、郁の名前を呼んだ。