誘われるように晴美は美術室の扉を開けると、足を踏み入れた。広い美術室の、机達は端へ寄せられていて、その中心のぽっかり穴が開いた場所に、芸術家が使う様な大きな絵が立てられていた。床に散らばった絵の具と、絵筆達。まるで、一つの舞台。彼女は近付いていく。

キャンバスには黒が平淡に塗られていた。けれどその先に灰色と白色の文字、「がんばってください」が浮かんでいた。


なんとなく、自分に言われているようで。遠くで水音が響いた。ばしゃん、と。胸に落とされた波紋が、揺らめいて煌めいて広がっていった。