晴美(はるみ)は部活を辞めた。吹奏楽部だった。理由は、交友関係を保つのが困難だったから。大人達からしたら、小さいことかもしれないけど、彼女にとっては死活問題だった。彼女は音楽は大好きだった。音の束が一つとなって、色として弾ける様は最上の甘美であったのだ。

昔なら太陽が顔を隠すまで、学校に残るのに、最近は放課後を告げる鐘と共に帰宅の準備をして、息を潜めて教室から出る毎日だ。前とは異なる生活に違和感だけが体中を支配していた。だから、かもしれない。


ふと、学校を散策してみることにした。

暫く経った頃、何処かから、吹奏楽部の練習する音が聞こえてきた。それらが、まるで、自分を責め立てているようで。あの頃優しかった音色は、今となっては牙となって身体を蝕んでくる。自ら離れたその場所は、今、胸の奥で心臓を締め付けてくる。




嫌だ、と思った瞬間、晴美は走り出していた。早くその音から離れようと、放れようと、彼女は脱兎の如く駆け出した。そして、気付けば四階にいた。不思議と、静寂に包容されたこの場所には、音が聞こえて来なかった。

その代わり、誰かの足音が聞こえてきて。晴美は其方に歩き出した。四階の端、角を曲がったその場所に、美術室の木製の扉が鎮座している。それだけじゃなく、隣のクラスの、クラスの中心に居る様な顔立ちの整った茶髪の男の子が、此方を驚愕、といった表情で眺めていた。しかし、寸分後には颯爽と晴美の横を通り過ぎて去っていった。