祐也は王様の下僕が、昼休み頃に美術室に行こうぜ、と笑っていたのを思い出していた。あれから数日後のことだった。祐也には関係の無いことだった。王様が今日は他校の奴らと遊ぼうと言ってきた。笑っていた。世界は四角だった。喧騒が飛んできた。後ろの席には死体がいた。左隣の奴は娼婦のように、爪を綺麗に装飾していた。前の席には、白がいた。壊しちゃいけない、子供のとき夢見た世界に似ていた。

気付けば四角い世界から飛び出していた。後ろから王様の声が手を伸ばしてきたが、足は止まることを知らぬように走り続ける。

灰色は白に為れないと知っていた。だからこそ白を守ろうとするのだ。



美術室の前に着くと、扉は開け放した儘だった。静寂を保つ四角い世界に再び足を踏み出せば、そこは何の変哲もない美術室だった。その真ん中に立っているのは、悪戯で黒く塗りつぶされたキャンバス。味気ない白い塊が、空ッぽの身体を満たしていく。増幅していく澱んだ絶望。

それでも。もし、白に為れるとすれば。

祐也は散らばった筆を手に取ると、白い絵の具の色を付けた。そして、黒く塗りつぶされたキャンバスに、その色を重ねていく。矢張り少し黒と混じったけれど、構わないと思った。味気ない白の塊が、優しい色を持って口腔で咀嚼される。



祐也は筆を地面に置くと満足げに頷いた。踵を返して、四角い世界から、足を踏み出した。