昼休みも終わった帰り道、祐也は美術室の扉の前にいた。履き潰した上靴に纏わりつく重力。理由もなく彼と接するには契機がなく、そして自分がここにいる理由も判らない儘、古ぼけた美術室の前に立っている。

校舎の四階の、一番端にある美術室の四角い窓から見える先には、灰色に穢された背中。それと、誰だろうーーー女生徒が立っている。膝丈のスカートに、彼女も死体の一人かと思って、少しだけ軽蔑の目を向ける。なんで、こんな奴らに構わなきゃいけないんだ、祐也は喉を鳴らすと踵を返そうとした。




そして、息を止めた。

魚が、空を泳いでいた。


彼の描いた絵の中に、蒼の中に浮かぶ白い魚が重力さえも感じさせずに、悠々と。刹那、その魚が彼自身に見えた。きっと、その背中は灰色なんかではなかった。白だ。鮮明な、白だった。彼の世界は四角ではなく、無限に広がっていたのだ。祐也は自分の掌を見つめて空ッぽの自分を嘲笑した。

けれど、変わる気はない。ただ、鮮明な白に少し、灰色が恋い焦がれてみただけで。成れる筈なんてないのだから。