俺らの世界は四角だ。

祐也(ゆうや)は数学の授業を聴きながら、そう思った。右隣の奴は王様のように授業すら聞かずに談笑していて、後ろの席の女は顔を伏せ死人のように存在を消している。左隣の奴は化粧をしていて、娼婦の様に胸元を見せびらかしている。前の奴は、男で美術部ということだけで、虐めを受けている。顔立ちならそこそこ整っているのだから、サッカー部あたりに入ったら王族の仲間入りだったろうに。

(若い俺らは錯覚しているのだ)



ここが世界の全てなのだと。

「なあ、祐也ァ」


右隣の王様が、くすんだ金髪をワックスで固めて、ピアスの付いた耳を煌めかせて、祐也に話しかけてきた。

(俺らはオトモダチ、なんだってさ)

王様のお友達になっとけば世界は優しく接してくれる。平方メートルの世界に陳列する僅か45の机の一つに笑顔振りまけば一年間幸せなのに。ほんの少し髪染めて、オシャレな服着て、ただ、それだけで。目の前の男子生徒の背中を一瞥してから、祐也は王様に目を向けた。



「今日カラオケ行かね?いつもの奴らでさァ、な?いいだろ?」

「あ、悪ィ。今日ミチとセックス」両手を合わせて謝れば、王様は豪快に笑って祐也の肩を強く叩く。

「テメエ、どんだけセックス好きなんだよ、あ?淫乱かッてーの」


だって男子高校生だもん、と可愛らしく言えば、王様はキメエとまた笑う。祐也も笑う。笑う。笑う、笑う。狂ってる、と思う。四角い世界がどんどん迫って来て押し潰してしまえば良いのに。こんな奴らも、こんな、自分も。