彼の目がコートのポケットを見る。 「さっきから煩いスマホだね。貸して?」 彼が手を差し出す。 「えっ?」 私もコートのポケットに目をやり、握っていた手に力を入れる。 「早く貸して?」 穏やかで優しい言い方。 でもそれが逆に恐い。 もう、スマホを使うこともないんだ。 だったら……。 私はスマホをポケットから出して、彼に渡した。