天使のような笑顔で

「……安以?」


口から手を離し、俺は恐る恐るそう声を掛けてみた。


俺の声に反応した彼女は。

身体を動かす事無く、視線だけを俺の方に向けてくる。


彼女が俺を視界に捕えた時、どんな表情を浮かべるのかを知るのが怖くて。

自分から声を掛けたくせに、まともにそっちを見る事ができない。


「真吾君……?」


彼女の声を耳にしながらも、顔を向けられなくて。

閉じられたままのドアを見つめながら、俺は黙っていた。


「ここは……?あっ!」


その小さな悲鳴に、慌てて彼女へと顔を向けると。

身体を起こそうとしたらしく、左肘をついたまま前に屈みこんでいた。


「安以っ、まだ動いちゃダメだってばっ」


ベッドの横に膝まづき、慌てて彼女に視線の高さを合わせ。

痛みに強張らせていた肩に、そっと触れてみた。


「あっ、大丈夫…ですから」


その引きつった笑顔が、彼女のケガの大きさを遠回しに伝えてくる。


痛いに決まってるだろ、こんなの……。


「いいから、じっとして」


彼女の身体を支えながら、ゆっくりとベッドに横たわらせ。

めくれてしまった布団を、掛け直した。


ただ、どうしても視線が合わせられないんだ……。