天使のような笑顔で

高い位置から、横たわる彼女を見下ろし。

まるで吸い込まれるかのように、顔を近付けていく。


柔らかそうな、綺麗な唇。

その唇に、無性に自分の唇を重ねたくなる。


もし、気を失ってるんだとしたら。

きっと…簡単には目を覚まさないだろうから。


軽く触れるだけなら、大丈夫…だよな?


ごくりと、唾を一度飲み込み。

俺はそのままゆっくりと、唇を安以の唇へと重ねようと近付けていった。


2人の距離が、どんどんと短くなっていく。


30センチ…20センチ…10センチ……。

あと数センチで、唇が完全に触れ合う距離になった時。


突然、安以の瞼がゆっくりと開いた。


「!?」


予期せぬ展開に、俺は無言のまま思い切り身体をのけ反らせ。

慌てて、自分の口を両手で塞いだ。


「……」


驚きから、思わず大声をあげそうになったのを防ぐ為と。

触れそうになった唇を隠そうとした為ではあったんだけど。


瞼を開いた安以は、そんな事には全く気付いていないように見えた。


ぼんやりとした表情で、ただ保健室の天井を眺めているだけで。

俺の事にさえ、気付いていないようだった。