天使のような笑顔で

「あの日、俺がこの子と……?あぁ、あん時かぁ」


しばらく考えていた先生は、やっと思い出したようで。

何か含んだような笑みを浮かべながら、こっちをじっと見てきた。


忘れちゃうぐらいに、どうでもいい事なんですか?


そう尋ねたいのに、答えを聞くのが辛い。

だって、安以は先生の事を本当に好きなのに。


「俺はただ、肩を揉んでやってただけなんだけど?」


そう、肩を揉んじゃうぐらいに…って、えっ!?


「肩……?」


「そう。肩こりのひどいこの子の、肩を揉んでやっただけだぞ?」


かっ、肩こり……?


「えっ、でもっ」


あんな声を出したりするのか……?


「肩が弱いらしいな、この子は。すっごくそそる声を出してくれて、ちょっとフラッとしたけどな」


そう言って、豪快に笑うと。

いつの間にか手当を終わらせていた先生は、道具を持って立ち上がった。


「フラッとって……」


そう呟きながら、俺は正直まだ迷っていた。

この先生の言葉を、本当に信じていいものかどうかを。


安以に訊いたら、何て答えるんだろうか?


そんな事を考えながら、俺は傷だらけの彼女の顔へと目線を移した。