「……本当に、すみません」


あれから10分後。

彼女に連れられて来た桜庭家は、留守で誰もいなかった。


「急に用事ができたなんて……。せっかく、高崎君が遊びに来てくれたのに」


鍵を開けて入った彼女と俺を迎えてくれたのは、彼女のお母さんの残したメモ書きだけ。


≪急な用事ができたので出かけてきます。8時ぐらいには帰れると思います≫


そう書かれたメモを、彼女は残念そうに眺めていた。


俺としては、とりあえずほっとしていて。

さすがに、お母さんに会うのは緊張するから。


「でも、ゆっくりしてって下さいね」


そう言って、彼女はリビングの入口に立っていた俺に近付いて来た。

何か意味ありげに、俺を見ている。


「せっかく…2人きりですもんね」


その言葉に、俺はドキッとしていた。


『2人きり』って……。

せっかく2人きりだから、どうするって言うんだよ?


つい、変な妄想を抱いてしまう。


でも、彼女が好きなのは島崎先生なんだろ?

俺と2人きりになったって、何のメリットも無いはず……。


「お母さんには、内緒にして下さいね?」


そう言って、彼女は俺の右腕をそっとつかんできた。


「な、何を……?」


天使のような彼女が、何か企んでいる小悪魔のように見えてくる。

いつもと違う雰囲気に、俺の心臓は高鳴りっぱなしだった。


「初めてなんです、私。だから…教えて下さい」