「さ、桜庭さんはこの辺の家なの?」


話題を変えようと、慌ててそう尋ねる。

彼女の方はさほど気にするようでもなく、視線をまた俺に向けてきた。


「私は、あそこのマンションなんです」


そう言って彼女が指差したのは、ここから目と鼻の先の最近建ったばかりの高級マンション。


一体どんな奴が住むんだろう?と親と話していたけど、まさか彼女がそうとは……。


「そ、そっか」


格差社会を実感しながら、俺は愛想笑いを返した。


「そうだ。良かったら、うちに寄っていって下さい」


思いついたように、彼女は笑顔でそう言いだした。


「えっ?でも、俺なんかが行ったら……」


親が心配するんじゃないか?

そう言おうとした言葉を、とりあえず飲み込んだ。


「家で高崎君の話したら、母も会いたがってたんです。是非、寄っていって下さい」


そう言ったかと思うと、彼女は俺の右手を急につかんで引っ張るように歩き出した。


「あ、ちょっ……」


思いがけない展開に、俺はただただ戸惑っていた。


だけど、家で俺の話をしてくれていたのかと思うと。

何だか照れくさいような、嬉しいような感じで。


彼女のお母さんにどう挨拶しようか?


腕を引かれて歩きながら、そんな事を考えたりしていた。