先生が…もっと嫌な奴なら良かった。


そしたら、遠慮なく恨んだりできるし。

彼女に、『あいつはやめとけよ』って言う事もできるのに。


彼女が好きになるのも、分かる気がするんだ。


男の俺から見たって、先生は…カッコ良くて優しい大人の男だ。


「先生は、彼女はいるんですか?」


つい、そう訊いてしまった。

だってもし彼女がいるのなら、桜庭さんの想いは叶わないのだから。


「いきなりだな、お前」


そう言って、先生は屈託なく笑った。


その笑顔は、先生の後ろで元気よく咲いているひまわりによく似合っていて。

思わず、見とれてしまった。


「彼女じゃないけど、好きな奴ならいるよ」


片想いだけど。

先生は、そう続けた。


「それって…ここの生徒とか?」


不安になって、そう尋ねてみた。

だって、その好きな人が桜庭さんじゃないとは限らない。


「アホ。俺の事幾つだと思ってんだ?中坊に手ぇ出すほど困ってねぇぞ?」


そう言ってからじょうろを拾い上げ、先生はこっちに向かって歩いて来た。


「心配しなくても、あっちの安以ちゃんは盗らねぇよ」


「なっ!?誰もそんな事っっ」


本心を言い当てられ、俺はかなり焦っていた。

うまくごまかしたいのに、何て言っていいのかが分からない。


「彼女とうまくいったら、保健室の鍵貸してやるから。あそこならベッドがあるからちょうどいいぞ」


笑いながらそう言って、先生は俺の横を通り過ぎて行く。

振り返ってその白い後ろ姿を見送りながら、ひとまず俺はほっと胸をなでおろしていた。


先生が彼女の事を想ってなくて、とりあえず良かった。

まぁ冷静に考えれば、そんなわけないんだけど。


ただ、あの笑顔は誰でも魅了してしまうから。

もしかしたら…って思ってしまったんだ。