「ケガの事、桜庭さんには言うなよ?」


小声で、和也に告げた。


彼女の悲しむ顔は、やっぱり見たくない。


「やっぱ、彼女が原因なのか?これは」


そう言って、和也は俺の左手のリストバンドを指差した。

夏服だから、半袖のシャツでは隠せていない。


「授業中はまずくないか?これ」


「まぁ…うまく隠すよ」


だって、この下は湿布が包帯でとめてある。

外したら、彼女が気にするじゃないか。


「女に興味無しの真吾君が、いよいよ初恋を迎えたってわけか」


バカにしたようにニヤニヤしている和也にカチンときて、俺はムキになって言い返した。


「彼女が初恋じゃないよっ。初恋は、幼稚園の先生だっ」


「真吾、お前…可愛すぎっっ」


ぷぷっと笑ったかと思うと、和也は急に抱きついてきた。


こいつは昔から頭がいいから、たまに人を子供扱いしてくる時がある。

嫌いじゃないんだけど、何だかバカにされてるみたいで気分は良くない。


「彼女も、お前の事まんざらじゃないんじゃねぇの?告っちまったら?」


抱きついたまま、俺の耳元でアイツはそう言ってきた。


「無理だよ。彼女、好きな人いるし」


「え?前の学校とか?」


「いや、うちの学校」


保健医だけど……。


「転校初日に、もう好きな奴ができてたのかぁ。その相手って知ってる奴?」


「あぁ、知ってるよ」


お前は、特にな。


「イケてるか?」


「まぁ、な」


残念だけど、それは認める。


「誰だよ?ソイツ」


和也は、いまいちピンとこないらしい。