「高崎君?」


顔をしかめた俺を、彼女は心配そうに見ている。

胸を叩いていた手も、そのままで止まっていた。


「いや、何でもないよ」


そう言って、右手をついて立ち上がってみせた。


無理に笑顔を作って見せると、俺は木の根元でじっとしていた仔猫の元へと歩み寄った。

怯えた顔をして、じっとこっちを見ている茶色の仔猫。


その顔は…どことなく彼女に似ている気がした。


「保健室、連れて行ってみようか?」


「えっ、でも……」


「人間も猫も同じ哺乳類だし、何とかなるんじゃない?」


このまま、ほっとくわけにもいかないし。

ましてや、獣医なんてどこにあるか分からない。


「この子…ずっと鳴いてたんです。声につられて来てみたら、木の上から下りられなくなってしまったみたいで」


そう言って、彼女も近付いてきて。

それを見て、怯えていた猫がほっとした顔を見せた気がした。


お前も…彼女が好きなんだな。


俺には聞こえなかったお前の声が、彼女にはちゃんと届いたんだもんな。


お前にとっても、彼女は天使…なんだろうな。


「じゃあ行くか、保健室」


すると、コイツは「ミャア」って返事をしてきて。


「分かってるんですね、言ってる事」


そう言って、彼女は笑った。


この笑顔を独り占めしたいって思うのは…やっぱり罪なんだろうか?