「……待てよ!」


永井先生の声が聞こえたのと同時に、私はぐいっと腕を引っ張られる。

そして、後ろからぎゅっと抱きしめられた。


……えっ?

何?

私、今、永井先生の腕の中にいるの?

何で……


私は混乱して、動けなくなる。


「なぁ、萩原。さっきの……、本当?」


私は黙って頷く。


「ありがとう」


永井先生は、私の耳元でそう言うと、私を自分の方へ向かせる。

そして、私の頬にそっと右手を添え、親指で涙を拭った。

左手は私を抱きしめたまま……


「泣くなよ……。もう、ここへは来ないなんて言うなよ」


弱々しい声で、永井先生は言う。


「ねぇ、先生……。私、ここに来てもいいの?これからも……」

「あぁ、待ってる」


そう言うと、永井先生はぎゅっと力強く抱きしめてくれた。


この時、私はただ嬉しかった。

これからも、“永井先生と一緒に居られる”という事が。

永井先生は『ありがとう』と言っただけ。

その後、その事で悩むとは思わずに……