ドとマイクが受け持つ火曜日と金曜日の七時からの入門クラスの生徒が来る日は楽しみだった。
裕子が勤め始めた頃、生徒達との交流の機会を作ってくれたのが、入門クラスの纏め役である柳井真介であった。
前任者の森川理世とは違い、凛とした気高さのある裕子に、生徒達は当初戸惑いを隠せなかった。 
その橋渡しをしてくれたのが柳井であり、裕子を受け入れてくれた最初の人達が入門クラスの生徒達であった。
裕子が久しぶりに焼いたクッキーをバスケットに入れてカウンターに出していると、
「おう、平沼さんのお手製ですか」
と真っ先に柳井が飛んできた。
「良かったら皆さんでどうぞ」
彼女が言い終わらないうちに、
「一人一枚しか取ったらダメだからな」
と言ってから、柳井は裕子の方に向きを変えた。
「平沼さん、明日僕の仲間が入会に来ますから頼みます。乾っていいます」
「ありがとう柳井さん。紹介で入学してくれるのだから入学金は免除しておきますね」
「ありがとうございます。でも紹介した僕には何もないんですか」
「ランチでいかがかしら」
「いいですね。絶対ですよ」
柳井は手を打って喜んだが、それ以上に、周囲からからかわれ頬を高潮させていた。
裕子は柳井の熱い視線をいつも感じていたが、元国際線キャビンアテンダントの彼女に
好意を示す男性生徒が少なからずいた。
マネージャーと言っても交際費はなく、生徒達に対する心遣いは裕子のポケットマネーから出されていた。
月末が近づくと一日に数回かかってくる本部からの送金催促の電話は月が変わるまで連日続いた。
彼女のストレスは胃痛となって表れ、近所の胃腸科医院に駆け込んでは薬を貰っていた。
その日も、講師達は午前の授業を終えると帰宅し、裕子が時計を見ると針は二時を指していた。