愁歌

どう答えればマイクに自分の気持ちが伝わるのか言葉を捜していた。
　「裕子、久しぶりに君の声が聞けてよかった-----」
　「マイク、待って！電話を切らないで！一日だって忘れたことがない。もう二度と会えないと思っていたから-----夢を見ているようで」
裕子はやっとの思いでそれだけを伝えた。
マイクは電話の向こうで泣き続けている裕子に、
　「驚かして悪かった。僕の妻になってくれるね」
　と言うと、
「待っています」
と彼女は幾度も繰り返した。
マイクの父親が経営する画廊が大阪に支店を出すことになったのは、帰国した彼の断ち切れない裕子に対する愛ゆえであった。
大阪に支店を出すために、マイクは寝食を忘れ奔走し、父親の友人である画家達が関西在住であったことが事態を好転させた。
　裕子は既に切られている携帯電話を握り締めながら、自分自身の中の愁歌が終わりを告げたことを感じた。
　「父さん、私の大切な人が戻ってきてくれる」
　裕子には澄み切った青空の中に、父親が笑みを湛え幾度も頷くのが見えた。