と運転手は口元を綻ばせた
裕子は礼を言ってからバスを降り、和歌山駅西口のマーケットに急いだ。
「母さん、今、和歌山よ。すき焼きが食べたくなったから材料を買っていくけど、他に欲しいものはない?」
「裕子、お肉は普段よりも多い方がいいね。うんと食べなくちゃね。あっ、それから---」
「何、母さん電波が悪いのかなぁー、よく聞こえなかった」
「何でもない。気をつけて帰っておいで」
母親は早口でそれだけ言うと受話器を置き、エプロンで顔を覆い娘のために涙を流した。
裕子は時計の針を追いながら今日一日を過ごしていたであろう母親を思った。
翌日、裕子は大阪本部に退職願を提出することを電話で伝え、周囲の雑音が静まりかけた一月末英会話スクールを退職し、幼なじみが経営している塾の講師として新しい道を進み始めた。
節分が過ぎ、裕子が母親と雛人形を飾ってから塾に出かけるため家を出た時、彼女の携帯電話が鳴った。
「解析不能」
と表示されたまま鳴り続ける携帯電話を訝りながら、
「もしもし」
とだけ言った。
「裕子、僕だよマイク」
「えっ!」
裕子は驚きのあまり、携帯電話が手からすべり落ち、慌てて拾い耳に当てた。
裕子には確かにマイクと聞き取れたが、それを否定しながらもう一度、
「もしもし」
と言ってみた。
裕子は礼を言ってからバスを降り、和歌山駅西口のマーケットに急いだ。
「母さん、今、和歌山よ。すき焼きが食べたくなったから材料を買っていくけど、他に欲しいものはない?」
「裕子、お肉は普段よりも多い方がいいね。うんと食べなくちゃね。あっ、それから---」
「何、母さん電波が悪いのかなぁー、よく聞こえなかった」
「何でもない。気をつけて帰っておいで」
母親は早口でそれだけ言うと受話器を置き、エプロンで顔を覆い娘のために涙を流した。
裕子は時計の針を追いながら今日一日を過ごしていたであろう母親を思った。
翌日、裕子は大阪本部に退職願を提出することを電話で伝え、周囲の雑音が静まりかけた一月末英会話スクールを退職し、幼なじみが経営している塾の講師として新しい道を進み始めた。
節分が過ぎ、裕子が母親と雛人形を飾ってから塾に出かけるため家を出た時、彼女の携帯電話が鳴った。
「解析不能」
と表示されたまま鳴り続ける携帯電話を訝りながら、
「もしもし」
とだけ言った。
「裕子、僕だよマイク」
「えっ!」
裕子は驚きのあまり、携帯電話が手からすべり落ち、慌てて拾い耳に当てた。
裕子には確かにマイクと聞き取れたが、それを否定しながらもう一度、
「もしもし」
と言ってみた。
