マイクは時計を見ながら言った。
 「マイク、私からのクリスマスプレゼント」
 裕子はブルーのリボンの掛かった紙包みを渡した。
 「ありがとう」
 「機内で開けてね」
 裕子は先に伝票を持ってレジに向かった。
 出国ゲートに近づいた時、マイクは裕子を長い腕に包み、二人は唇を重ねた。
 そこが空港であり行き交う人がいることさえも今の瞬間を引き裂くことは出来なかった。
 「アイ ラヴ ユウ」
 マイクはゆっくりと反復し、振りかえらずセキュリティに進んだ。
 裕子は涙のレンズを通して彼の背中を追い続け、 
「マイク、マイク、マイク-----」
無言の叫びを繰り返し、その場に立ち尽くし、
 「裕子!」
 と手を振りながらマイクが戻ってくるような幻想を彼女は見ていた。 
 マイクが搭乗案内を待つ間、裕子からの紙包みを開くと、手編みの白いセーターにクリスマスカードが添えられ「さようなら、愛しい人。裕子」とだけ書かれていた。
 「グッバイ裕子」
 マイクはセーターを握り締め呟いた。
 
裕子は空港リムジンバスの中で目を閉じ、揺れに身体を任せながら意識が薄れていった。
 「着きましたよ」
 と運転手に声を掛けられた時、裕子は今の状況を把握できず、一瞬返答に戸惑った。
 「和歌山駅の東口ですよ。よく眠っていたのですね」