前任者はアメリカ留学の経験もあり、マネージャーの職を離れてもパトリシアとは懇意にしていた。  
「裕子、私のグループレッスンの時間を減らして欲しい。出張レッスンが多いから疲れるの」
「考えておきます。前のマネージャーの時に、何故言わなかったの」
「彼女は友達。あなたとは違う」
パトリシアは、顔にかかる金髪を振り払いながら裕子に主張し、自分が優位に立っていることを誇示してから部屋を出ていった。
「裕子、大丈夫?」
パトリシアの思わぬ反撃に立ちすくんでいる裕子にマイクが声をかけてきた。
彼女が戸惑いを隠せない笑みを返すと、彼はスカイブルーの目を細めながら彼女の両肩に大きな手を置いた。
マイクは優しい人柄に加え、スリムな長身と端正な顔立ちで、独身ということもあり年齢を問わず女性達に人気があった。 
特に裕福な生活をしている婦人達は個人レッスンには競って彼を指名し、授業料の高い出張レッスンを希望した。
既婚者のエドワードは講師達の中では常に冷静で、裕子にとっては良きアドバイザーであった。
授業料は月払いの個人レッスンと入学時に一年分を納入するグループレッスンになっているが、高額になるため英会話スクールと提携しているクレジット会社を利用する人が多かった。
英会話スクールマネージャーの勤務時間は午前十一時から午後八時迄で、昼休憩一時間は受付カウンター奥の事務室兼講師達の休憩所で取れるが、来客の応対で落ち着いて食事をすることは稀だった。
昼間の主婦クラスは、英会話の授業よりも社交場の一つに考えているらしく、お菓子を持参し長いティ―タイムを取っていた。
夕方になると勤め帰りの会社員や学生達で、ロビーは一段と賑やかになる。
彼等は早めに来て受付カウンターを取り囲み、裕子に矢継ぎ早に話しかけてくるが、彼女は苦痛に思ったことはなく、特にエドワー