とだけ言って車に乗りこんだ。
 一周間は瞬く間に過ぎて行った。
 マイクはクリスマスパーティー後、英会話スクールに事務処理のため一度顔を出しただけで帰国の準備に追われているようだった。
 新任のトムは、既に生徒達と交流を深め、特に柳井達のグループとは毎回授業終了後はコーヒーショップに出かけていた。
 裕子が最初から無理をすると疲れるから、自分の時間も大切にするようにアドバイスをすると、
 「日本に来るのは初めてだから、色々な事を知りたい。和歌山に住んでいる外国人達との交流も大切だけど。僕は日本人の友達を沢山作りたい」
 と彼は答えた。
裕子は今の気持ちを持ちつづけて欲しいとだけ言って会話を終わった。
 彼女は英会話スクールに勤めて初めて有給休暇を一日取った。
 その日、裕子は昨夜まで迷っていた自分が嘘のような爽やかな気分で朝を迎えた。
「裕子、今日は何か予定でもあるの」
裕子が朝食にフレンチトーストを作っていると洗濯籠を持った母親が聞いてきた。
「夕方から出かけるけど」
「誰かと会うの?」
「マイクの帰国が今日なの。空港まで送って行くつもりよ」
「そう、もう帰ってしまうの-----」
 母親はそこまで言うと、
 「今日は良いお天気だわ。早く干してしまわないと」
 と言いながらベランダに向かった。
 それが娘を励ます精一杯の母の明るさだった。
裕子は午後四時過ぎに家を出ると、マイクのマンションに向かった。
 彼女がマンションの傍でタクシーを降りると、丁度マイクが階段を降りてくるところだった。
 裕子が近づくと、彼はまぶしそうな目をして、
 「裕子、本当に来てくれたんだね」
 と言いながら彼女の肩に手を回した。