したが言葉を失った。
「マイク、お互いの幸せのために」
彼女は後に続いたが、今の二人の心を温める言葉ではなかった。
 グラスが重なり合った瞬間、二人を目覚めさせるような心地よい音が静かな部屋に浸透した。
 「僕からのクリスマスプレゼントだよ」
 マイクが小さな包みを彼女に渡した。
 リボンを外し包みを解くと、真珠のペンダントが入っていた。
 「マイク、ありがとう。真珠は一番好きな宝石。大切にするわ」
 裕子は精一杯の笑顔を見せようとしたが、溢れる涙が真実を語っていた。
 マイクが手を伸ばすと裕子は吸い寄せられるように彼の胸に身体を預け目を閉じた。
 未来を語ることが出来ないのであれば、せめて、幸せな日々の延長を今だけでも感じていたい、と二人は思った。
 アラミスの香りと裕子がクルー時代から好んで愛用していたディオリッシモの香りが絡まり、キャンドルの灯りが二人を包みこんだ。
輪郭を描くようにマイクの指先が裕子の身体を流れ、窓から漏れる空気の冷たさが薄れゆく意識を呼び醒まし、混じり合うように陶酔を繰り返した・
窓に映る煌煌とした月がマイクの腕に抱かれまどろみの中で心を泳がせていた裕子には眩しく映った。
 裕子は今にも負けそうになる自分を律し、
 「マイク、もう帰らなくちゃ」
 と言って支度を始めた。
 「分かった」
 と答えるマイクの瞳は深い悲しみをたたえていた。
 マンションを出ると、冬の夜空がクリスタルグラスのような輝きを増していた。
 言葉を捜しても見つかるはずもなく、ただ離れることの苦しさから逃れられず、傍を通るタクシーを幾台も見送った。
 「マイク、もう帰らなくては」
 裕子は握っていた手を離し、そのままタクシーに手を上げ、
 「メリークリスマス」