裕子の答えに、彼は意外そうな顔を向けた。
 「義姉に内緒で、付き合っている人でもいるのか」
 と叔父は顔を曇らせた。
 「別に-----、就職してようやく1年が過ぎて、仕事が楽しくなってきたから」
 裕子はそれだけで留めたが、叔父はお母さんのことも考えてあげなさいと言葉を足した。
彼女は母の老後を幸せにしたいと思っているが、母の為だけの結婚は避けたかった。
今、裕子の心を占めているのはマイクだけだったが、一番大切なことを避けて逡巡していた。
が、マイクの契約は十二月に切れるため、十月下旬には本部に更新するかどうかを伝えなければならず、マネージャーとして逃げることは出来なかった。
 裕子は敢えて勤務時間中に話すことは止め、
日曜日、合気道場での稽古を終えた後、いつものようにファミリーレストランではなくマイクのマンションに行った。
部屋で、裕子が朝から作ったサンドイッチとおにぎりの昼食を済ませ、彼女が食後のコーヒーをテーブルに置くと、暫く沈黙の時が流れた。
レースのカーテンを通して入る光を見つめていた裕子の視野に、振り向いたマイクの眼と合った。
「裕子、今日僕のマンションに来て君が何を言いたいのか分かっている」
マイクに裕子を見る優しい眼差しは消えていた。
「マネージャーとして、契約を更新するかどうか尋ねるわ」
「---裕子---」
「-----」
「僕は契約を更新できない。」
 裕子はマイクの選択を予期していたから敢えて二人だけになれる居場所を求めた。
 「わかったわ。本部には明日連絡しておきます。マイクと交代の外国人講師は十二月初旬に和歌山に来ると思うから。それから十一月に入ったら受講生達にも知らせなくてはね。  
彼等も送別会をしたいだろうから」
 毅然としている裕子は、張り詰めた風船のようにマイクには映った。