彼自身、裕子と結婚することを既に決めていたが、日本に留まる決心はついていなかった。
 「マイク、裕子は一人娘だよ。彼女が母親を一人日本に置いてアメリカに行くとは考えられない。それとも結婚と恋愛は別だと考えているのか」
 とエドワードが嘗て忠告してきた。
 「僕は器用な人間じゃないよ。裕子と結婚したいと思っている」
 マイクの正直な気持ちだった。
 だが、エドワードはそれでは答えになっていないと言った。
マイクは裕子が離れて行く不安から一番大切な問題を避けていたが、まだ結論が出ていなかった。
 彼はホテルに着くとチェックインを済ませ、そのまま父親の部屋を訪ね、挨拶をしただけで自分の部屋に行った。
 シャワーを浴び、缶ビールを一口飲むと、無償に裕子に会いたくなった。
 彼女を抱きしめ、
 「裕子、僕と離れないで」
 と言ってキスのシャワーを贈りたかった。
 結論の出ない一人相撲がマイクを疲れさせ、ビールが眠りの世界に導いた。
 マイクの父親はサンフランシスコで画廊を経営し、京都に留学した経験から日本画に惹かれ、常に数点飾っていた。
彼は初めて見た上村松皇作品展で、胡粉の持つ永遠の白の美しさに出会い、嘗てない感動からその場に立ち尽くしたと語った。
 翌朝、マイクは父親と一緒にホテルの朝食のテーブルに着いた。
 話題は仕事や家族の事で、パリの画廊に勤めていた長兄が、今、ニューヨーク支店に移り来年にはサンフランシスコに戻ると話した。
 そして、彼は本題に入った。
 「マイク、英会話スクールとの契約は今年の十二月で切れるんだろう。年末には帰国するのか」
 「いえ、まだ考えていません」
 「ところで恋人が出来たそうだな。私も留学していた時、京都の女性と付き合っていた。  
しかし結婚出来なかった。やはり国際結婚