明し終えると、乾と二人でメインセールとジブセールを張るために忙しく動き回った。
真夏の太陽の下、狭いデッキの上を動く日焼けした若者の長い足に、真っ白いデッキシューズが映え、裕子は柳井と乾の姿を目で追っていた。
潮風と波を切る音に包まれながらヨットは風上に向かって、藍色のキャンパスの上を帆走した。
ティラーは恭子から美佐、裕子と代わる代わる持ち、初めてのヨットクルージングを体感する楽しみが加わった。
裕子が彼方に見える水平線の無限の美に魅了されていると、
「平沼さん、自分の世界に入っていますね」
乾が裕子の傍に座りながら声をかけた。
「広大な海の中では、人間なんて木の葉に乗る蟻のようなものですね」
「そうですよね。そしてそんな蟻でも抱えきれない悩みや苦しみを持っている。でも船に乗ると忘れてしまうんです。忘れさせてくれるんですよ」
乾の言葉に裕子は素直に頷いた。
「そろそろ食べない。お腹がぺこぺこ」
恭子が持ってきたバスケットからサンドイッチを出し始めたので、美佐と裕子もそれぞれ用意してきたものを広げた。
「気配りの柳井」と異名をとるほど、柳井は三人の女性を退屈させず、裕子も久しぶりに抱腹の時間を過ごした。
ヨットがハーバーに帰港し、船を降りるころになると、燃えるような夕日が桟橋を歩く五人の背中を照らし始めた。
柳井が夕食を誘ったが、初めてのヨットクルージングで疲れた女性達の賛同を得られず、結局そのまま帰宅することになり乾は先に美佐を降ろしてから、裕子を送った。
後五分ほどで自宅に着くという時、
「平沼さん、お母さんの面倒は僕が必ず見ます。だから考えてください」
乾は語調を強めた。
裕子が言葉を捜している間に、車は止まった。
「平沼さん、僕のこと考えてください」
乾は搾り出すように言った。
真夏の太陽の下、狭いデッキの上を動く日焼けした若者の長い足に、真っ白いデッキシューズが映え、裕子は柳井と乾の姿を目で追っていた。
潮風と波を切る音に包まれながらヨットは風上に向かって、藍色のキャンパスの上を帆走した。
ティラーは恭子から美佐、裕子と代わる代わる持ち、初めてのヨットクルージングを体感する楽しみが加わった。
裕子が彼方に見える水平線の無限の美に魅了されていると、
「平沼さん、自分の世界に入っていますね」
乾が裕子の傍に座りながら声をかけた。
「広大な海の中では、人間なんて木の葉に乗る蟻のようなものですね」
「そうですよね。そしてそんな蟻でも抱えきれない悩みや苦しみを持っている。でも船に乗ると忘れてしまうんです。忘れさせてくれるんですよ」
乾の言葉に裕子は素直に頷いた。
「そろそろ食べない。お腹がぺこぺこ」
恭子が持ってきたバスケットからサンドイッチを出し始めたので、美佐と裕子もそれぞれ用意してきたものを広げた。
「気配りの柳井」と異名をとるほど、柳井は三人の女性を退屈させず、裕子も久しぶりに抱腹の時間を過ごした。
ヨットがハーバーに帰港し、船を降りるころになると、燃えるような夕日が桟橋を歩く五人の背中を照らし始めた。
柳井が夕食を誘ったが、初めてのヨットクルージングで疲れた女性達の賛同を得られず、結局そのまま帰宅することになり乾は先に美佐を降ろしてから、裕子を送った。
後五分ほどで自宅に着くという時、
「平沼さん、お母さんの面倒は僕が必ず見ます。だから考えてください」
乾は語調を強めた。
裕子が言葉を捜している間に、車は止まった。
「平沼さん、僕のこと考えてください」
乾は搾り出すように言った。
