夕食時には早いためか、客はまばらで見晴らしの良い席に着くことが出来た。
 「マイク、ここは初めて?」
 「いや、一度エドワード達と来たことがある。ここの店はエドワードのお気に入りで家族で時々来ると言っていた。裕子、メニューは僕に任せてくれる」
 「ええ、お願いするわ」
 マイクはコース料理を選び、テーブルワインを追加した。
 しばらくすると、オードブルとテーブルワインが運ばれてきた。
 注がれたワイングラスを手に持つと
 「裕子、病気の時、君の作ってくれたスープが最高に美味しかった。将来、僕の妻になることを考えてほしい」
 マイクは顔を上気させながら少し目を細め、それでいて裕子の目をしっかり捕らえたまま言った。
 裕子は黙って頷いた。
 グラスが重なった瞬間、神の許しを得たような心地よい響を漂わせた。
 
       夕立        
鉄線の花が今年も庭に夏の足音を知らせるように白い花をつけた。
父の入院の前日、母と二人で大きな植木鉢に植え替えていた姿が昨日のことのように思い出され、裕子は目頭が熱くなった。
 「父さんはいないけど、今年も咲いてくれたのよね」
 彼女は今にもひょっこり現れそうな父親の姿を求めて呟いた。
 五、六月は英会話スクールの特別なキャンペーンもなく、入社当初、本部からのノルマや送金増額を真摯に受け止めすぎていた裕子であったが、今では、自分自身が最大の努力をすることだけを心がけるようになっていた。
 学生の為の夏休みキャンペーンが始まると、受付けカウンターの周りは一段と賑やかになり、外国人講師達も短期間ではあるが授業時間が増えた。
 新入生のリストを整理してほっとしていると、授業を終えた柳井と乾が受付カウンターにやってきた。