から天守閣に向かった。
 和歌山城本丸は海上から見ると虎が伏した姿に見えるという虎伏山の頂きに位置し、東部の本丸御殿と西部の天守閣で構成されていた。
御三家紀伊徳川家の居城であったが、天守閣が江戸初期の落雷により消失し、再建したが昭和二十年の戦火で再び消失した。
しかし、昭和三十三年に鉄筋コンクリートの天守閣が復元された。
 帰路は、観光客や地元の花見客の多かった表坂とは違う新裏坂から砂の丸を通り、西の丸庭園に向かった。
 「僕はドイツのハイデルベルク城しか知らないけど、日本のお城もすごい」
 「具体的に、って言うと答えに困るでしょうね」
 「上手く説明できない。ただお城は神秘的だ」
 「そうね。私はこれから行く紅葉渓庭園が好きなの。心が静かになりたい時、来たりするのよ」
 「禅の気持ち?」
 「難しいことは分からないけど、お抹茶を頂けるの。マイクはどう?」
 「まだ飲んだことがない。苦いお茶を正座して飲むんだろう」
 「苦いというより、普段飲んでいる日本茶を凝縮したような味かな。でも私はまろやかに感じるけど。正座はしなくていいのよ。椅子とテーブルが用意されているから、心配しないで」
 マイクはホッとしたような顔をした。
 紅葉渓庭園は紀州徳川藩祖、頼宣候が西ノ丸御殿に築造した起伏の変化に富んだ、破墨山水的景観の名園である。
 裕子は入園すると、早速茶室、紅松庵にマイクを案内した。
 「ところで、ナショナルというメーカーを知ってる?」
 「勿論。大企業だ。世界に進出している」
 「その会社の創業者が和歌山の人で、この茶室を寄贈されたのよ」
 マイクは足を止め、小柴垣と植え込みに囲まれた数奇屋造りの紅松庵の建物に見入って