べ始めた。
 食事が始まると、母親の方が饒舌で、久しぶりに出かけた芝居見物が楽しかったのか、思い出し笑いをしながら裕子に話した。
 母親が食後の焙じ茶を入れ、湯呑を裕子に渡しながら、
「ねぇ、裕子はお給料以上の仕事をしているんじゃないの。母さん、身体の方が心配で」
 と不安そうに娘の顔を覗き込んだ。
 「身体は大丈夫。仕事は大変だけど、普通の事務の仕事に比べると楽しい時もあるから。     
それに英語の勉強にもなるし、やっぱり合っているのかなぁー、今の仕事」
 「そう、でも無理しないでよ。ところで外国人の先生の病気は大丈夫だったの」
 「普通の風邪で、インフルエンザではなかったみたいよ。病院で診てもらったようだから」
 「異国に来て不安だったでしょうね」
母親はそれ以上、そのことに触れなかった。
夫が他界してから、
「天国のお父さんに申し訳ないから」
と言うのが口癖だった母親が、最近では近所の友達から誘われると出かけ楽しい時間を持つようになったことに裕子は安堵していた。
 週明けの月曜日はマイクが休みになっているため、出勤してから電話を入れると、熱も下がり体調が良くなったようで声に元気があった。
裕子の仕事が終わる頃事務所にくると言ったが、彼女は断った。
 一週間は瞬く間に過ぎ、マイクを避けるわけではないが、却って事務的な会話以外裕子はしなくなっていた。
 マイクもまた、生徒や他の講師を意識してか、特別話しかけることはなかったが、パトリシアの休みの日は次のレッスンまで時間があると、今までは出かけていたのが、事務室やカウンターで裕子と雑談した。
 四月も十日を過ぎると、桜は雨の洗礼を受けるごとに、その美しさを失って行く。
裕子とマイクが和歌山城を訪れた時、もうこれまでと、最大限の美しさを見せている時だった。
 二人は一の橋を渡り大手門から入り、表坂