「マイクはお喋りね。エドワードも山岡先生の門下生だそうね」
 「今は先生の門下生で上段者の人が開いて
いる道場が近いから練習はそちらに行ってる
けど。でも時々、先生のお宅を訪問して一緒
にお茶を飲む時もあるんだ」
 「そうだったの。私は長い間休んでいたので袴をはくのが恥ずかしかったわ」
「そんなことない。マイクは袴姿の裕子は違う人みたいだったと感心していた」
「そうそう、マイクは入門クラスのメンバーと今日はお花見じゃなかったかしら」
「ああ聞いている。でも行ってないと思う。昨日授業が終わった後、寒気がして気分が 
悪いと言っていたから。多分風邪だと思う」
 「そう、大丈夫かしら」
 裕子が心配そうにすると、
 「薬を飲んで寝ていれば大丈夫だよ」
 そう言うと、彼は買い物包みを抱えてやってきた夫人の荷物を受け取り去って行った。
 裕子は食器売り場で一人用の土鍋を買い、地下食料品売り場にあるマーケットで食材を購入してからマイクの住むマンションに急いだ。
 外国人講師達は夜遅く帰宅するため、本部からの指示で英会話スクールの近くにマンションを会社が用意していた。
 ただ、会社が用意できるのは独身用の一LDKで、エドワードは結婚して子供が誕生したのを機に夫人の実家に同居した。
 裕子は嘗て独身男性のマンションを訪れた経験はなく、部屋の前まできた時、夢中で駆けつけたことに羞恥した。
 が、マネージャーとしての行動と、自ら納得させてからチャイムを押した。
 しばらくしても応答がなく、再び押すと、
 「はい」
 と、けだるいマイクの声が聞こえてきた。
 「マイク、裕子です」
 「裕子、ちょっと待って」
 と言ってから、マイクの足音が遠ざかった。
 裕子は鼓動を身体に共鳴させながら待った。
 「裕子、どうしたの」
 マイクは荷物を両手に持って立っている彼女に驚いたようだった。