と乾の言葉が追いかけてきた。
 「ごめんなさい。父の一周忌を控えているので」
 裕子は二人に頭を下げた。
 亡父の法要を控えて母と二人で準備に忙しかったが、今までの彼女なら参加を拒むことはしなかった。 
が、今の裕子はマイクと一緒に参加し、彼女に好意を寄せる柳井や乾と過ごすのが苦痛に思えたからだった。
 「がっかりだなぁ。でもお父さんの法要を控えてるんじゃ無理も言えないし」
 柳井は乾の方を見ると、彼も同感と言うように頷いた。
 裕子は心の痛みを感じたが、これからはなるべく、生徒達と交流するのは受付カウンターにいるときだけにしようと決めていた。
 八時になると留守番電話をセットして彼女は帰宅した。
 日曜日、裕子は部屋の掃除を済ませ、法要の粗供養を購入のためデパートに出かけた。
 母と相談して、遠方の親戚のために、かさばらない日本茶とギフト券を選び、法要日までに自宅への配送を頼んだ。   
 用事を終え、久しぶりに婦人服売り場に足を延ばすと、丁度タイムバーゲンが始まっていた為、ワゴンを取り囲むように人垣が出来ていた。
 裕子が見遣ると、幼女を連れた外国人男性が目に止まった。
 彼女が近づいていくと、
 「やぁー。ショッピング?」
 とエドワードが声をかけてきた。
 「ええ、奥様は一緒じゃないの」
 「ワイフは今奮闘中、あそこでね」
 彼はワゴンを囲む主婦の集団に目を向けた。
 「優しい旦那様ね。エドワードの娘さん、お人形のように可愛いわ」
 「マリーです」
 エドワードが二歳ぐらいの幼女の肩を叩くと、彼女は裕子に微笑みながら小さな手を差し出した。
「ところで、裕子が合気道の初段だと聞いて驚いたよ」