ールフレンドがいると思っていたの。だから」
 「裕子、僕だけのガールフレンドになってくれないか」
 マイクが裕子の瞳を捕らえて離さなかった。
 英会話スクールでは、マネージャーと講師という立場を決して崩さないマイクからの思いがけない言葉に、彼女は茫然としながらも、そのまま頷いた。
 亡父の病で帰郷し、やがて母親と二人になり、英会話スクールで学校運営と本部送金に追われ、自分自身を振り返ることも、泣くことも出来ないできた数年であった。
 彼女は目の前を霞めていく涙の訳を真摯に受け止め、気付かないまま避けていたことが、今、彼女の心に灯火となったのを自分自身で確認していた。
 マイクは講師として見せる以上に静謐な男性だった。
 翌日、裕子は弾む心を隠す術がないと思えるほど、嬉々とした表情で出社した。
 十一時になると、主婦クラスを持っているパトリシアがやって来た。
 タイムカードを押し、コーヒーを入れると、
 「裕子、主婦クラスの人数が十人になるの、これ以上増えたらニつに分けて欲しい」
 「考えているわ。ビギナークラスを新設するつもりよ」
 「分かったわ。サンキュー」
 パトリシアは時々ヒステリーを起こすが、マネージャーとして毅然としている裕子に対し我侭な主張を控えるようになってきた。
 事務室のデスクに裕子が昼食の弁当を広げた時、受付ロビーからマイクと女性の話し声が聞こえてきた。
 「裕子」
 マイクが事務室の入り口に立ち、
 「食事中に悪いけど、新入生が来たんだ」
 彼は申し訳なさそうに言った。
 「直ぐ行くわ。マイクの知り合いの人」
「僕の出張レッスンの生徒、ドクター山木
の奥さんがスクールで個人レッスンを希望している」
「それじゃ、あなたを講師に希望しているのね」
「昼間だったら、まだ時間が取れるから」