彼女はマイクの相手をした後、上段者に指導を仰ぎ、瞬く間に練習時間が過ぎていった。
正午になると神棚に向い山岡先生、後方に一同が正座し手を合わせ、続いて弟子の方に向き直った先生に対し一同が挨拶をした。
 男性は道場の壁際で着替えをし、裕子は女性用更衣室に行く前に再び山岡先生に挨拶をして、嘗て指導を仰いだ上段者の人達にも無沙汰の非礼を詫びた。
 久しぶりに汗を流し後は、持参した麦茶が心地よく喉を潤し、着替えを終え外に出ると、自転車置き場にマイクが立っていた。
 「お疲れ様。本当に今日はマイクに驚かされたわ」
 「僕もだよ。裕子が来るなんて思わなかったから」
 「どうして合気道に魅かれたの」
「山岡先生の書かれた本が英語版で出ていたのを大学時代に読んでいたので、勤務先が和歌山校と聞いた時は嬉しかった。ここに来て、武道は知識じゃないと改めて分かった」                    
「そうよね。気で相手を捕らえるのよね。
難しいわ」
 裕子がため息を漏らすと、
 「裕子、ランチを一緒に行かない?」
 マイクが誘ってきた。
 「行きましょうか」
 彼女は即答出来たことに自分自身驚いたが、
 「さぁー、行こう」
 と言って先に自転車を漕ぎ出したマイクに裕子も後を追った。
 二人は自転車で近くのファミリーレストランに向かった。
 日曜日の昼時は家族連れで混み合っていたが、しばらく入り口に置かれた椅子で待っているとテーブルに案内してくれた。
 スパゲッティを頼むと、裕子は窓から見える和歌山城に見入っているマイクの横顔を見つめていた。
 端正な顔立ちにブラウンの長いまつげ、光を浴びると輝くような淡いライトブラウンの長めの髪が時折額に掛かっていた。
 裕子の視線に気付いたのか、マイクがライトブルーの目をこちらに向けた。
 「裕子、どうしたの?」