腸科の名前を言った。
 「マイク、山城先生を知っているの」 
 「僕の友達の一人。和歌山に来た時、最初にお世話になったドクター」
 「そうだったの。時間を問わずに見てくださるので、甘えてお世話になっているわ」
 「山城先生が、裕子ちゃんは可哀相にストレスが多すぎる。英会話スクールっていうのは、そんなに大変な職場なのか、と聞いていた」
 マイクはそう言いながら両手を広げた。 
 英会話スクールで外国人講師と私的な会話はほとんどなく、裕子も敢えて彼等の私生活に立ち入ろうとはしなかった。
ところが、思いがけないマイクの言葉から自分を見てくれていたことが分かり、彼女は嬉しさがこみ上げてきた。
 「山城先生が日本人は時間外に働くことを美徳に思っているようなところがあると言っていたが、裕子もそういう考えを持っているの」
 マイクが食い入るような目を投げかけた。
 「そんなことないわ。授業の前後しか話せない生徒もいるから、仕方ないのよ。更新してもらうことは、私の仕事だから」
 「しかし、それは残業だろう」
 「そうだけど、給料には関係ないわ。残業手当はつかないから」
 「それはおかしいよ」
マイクは理解できないという表情をした。
 彼は労働に対する報酬が支払われないことに文句を言わない彼女を理解できないと繰り返した。
 彼女が逃れるように、嘗てキャビンアテンダントの時に乗務した彼の郷里のサンフランシスコに話題を移すと、マイクは嬉々とした表情に変わった。
 電車が和歌山市駅に到着のアナウンスが流れる頃、二人の会話は家族のことに触れていた。
裕子は初めて難波駅から和歌山市駅までの一時間を短く感じていた。
 駅のエスカレーターで正面玄関に降りた時、
 「マイク、ありがとう。楽しかったわ」
 裕子は心から礼を言った。