乾は苦笑したが咄嗟に彼女は答えに窮した。
「ちょっとここで待っていてください」
乾は言い終えてから、小走りで受け付けの方に走ると一組の夫婦を連れてきた。
「親父とお袋です」
と言ってから、
「英会話スクールのマネージャーの平沼さん」
と彼女を両親に紹介した。
 裕子は何故、自分が改めて紹介されるのか理解できなかったが、ヘヤースタイルから爪先まで見届けようとするような母親の視線が酷く不愉快に思えた。
 「ごゆっくり」
 夫婦はそれだけ言ってから去って行った。
 乾は昼食を誘ってくれたが、裕子は断り会場を出て、近くのデパートでウインドウショッピングを楽しんでから帰宅した。
 その夜、乾から電話が入り、彼はゆっくり案内できなかったことを詫びたが、裕子は久しぶりの絵画展で心の浄化をする事が出来たと答えた。
 それは彼女自身の正直な気持ちだった。
 裕子は節分が過ぎると、三月の年度末を控え大阪本部に出張することが多く、電話で社長から連日、送金額増大の激を飛ばされ、彼女はここ数日、胃痛に悩まされていた。
 今日も日曜日だと言うのに、休日返上で大阪出張が入り、疲れを持ち越したまま電車に揺られていた。
 「平沼さん、お疲れのようですね」
 裕子が電車の揺れに任せて、いつの間にか眠っていたようで、ゆっくりと頭をもたげると乾が立っていた。
 「すいません。起こしてしまいましたね。隣に座っていいですか」
 「どうぞ」
 とまだ眠気の残った顔で裕子が言うと、彼は頭を下げてから座った。
 「乾さんも大阪ですか」
 「大学時代の友人と久しぶりに会うんです。平沼さんは買い物ですか」
 「だと良いんですけどね。本部で会議です」
 「休みだというのに大変ですね」
 「平日は教室があるからマネージャーが全