く背伸びをした。
階下に下り新聞を読みながら遅い朝食を済ませ、部屋の掃除を終えると、ようやくドレッサーの前に座り化粧を始めた。
長い髪は一つに纏め、シニヨンを作りベルベットのリボンの髪止めをした。
裕子は支度を整えながら、大学を卒業し就職したが、国際線の乗務をしていたため男性と知り合うチャンスもなく過ごしてきた二十歳代が瞬く間に過ぎてしまったように思えた。
「六歳下の乾君じゃ、対象外だけどね」
と彼女は鏡に映る自分に独り言を言った。
展覧会は和歌山市民会館地下にある展示室に於いて開催されているが、日曜日のため催し物が多く一階のロビーは混雑していた。
裕子が歩くと、やはり振り返る人が多いのは、羽織った白いオーバーコートが長身で細身の彼女を際立たせ、それでいて品良くまとめていたからだった。
乾は会場の入り口に立っていて裕子が階段を降りてくる姿を捉えていた。
裕子は会場前でコートを脱いで、紺色のスーツ姿で入口に立った。
中に入ると受付があり、数人の女性が来場者にパンフレットを渡し、芳名録への記帳を頼んでいた。
「平沼さん、こちらに署名をお願いします」
乾が芳名録を示したので、裕子は女性達に会釈をしてから住所と名前を書いた。
作品は三十号迄で、水墨画から最近の日本画の傾向である厚塗りの作品まで幅広く出品されていた。
乾は裕子の傍で説明を加えていたが、顔見知りが多く挨拶に忙しくなり、彼女は自分のペースで足を進めた。
一周し終えるところで、燃えるような深紅の薔薇を描いた三十号の作品の前で彼女は足を止めた。
油絵のように厚塗りされた絵は近づくことさえ拒んでいるようだった。
が、名前を見て、はっと息を呑んだ。
「平沼さん」
と乾に声をかけられ、彼女は我に返った。
「母の作品です。年甲斐もなく派手な絵でしょう」