ち料理と雑煮は用意した。
 「父さんはお餅が大好きな人だった」
 「そして母さんの手料理も大好きだったのよね」
 裕子は母の背中に向かって言葉を足した。
 母親は雛飾りのような漆の三段重とお椀を亡夫の為に用意して、仏壇に供えた。
 蝋燭の灯りが揺れると、
 「ほら、父さんが喜んでいるのよ。蝋燭の火があんなに揺れているもの」
 母親は振り返り裕子に満面の笑みを見せた。
 三が日、裕子は外に出ることもなく、母娘二人で過ごした。
 年が明け松の内が過ぎると、英会話スクールも落ち着きを取り戻してきた。
 裕子がいつものように遅い昼食を事務室で取っていると、受付けのチャイムが鳴った。
 「近くまで来たので」
 と言いながら乾が先に受付カウンターの前に座った。
 「こんな時間に顔を見せてくれたのだからインスタントコーヒーでよかったら入れましょうか」
 「お願いします」
 裕子が事務室からマグカップを持ってきて差し出すと、乾は一口飲み、
 「フーッ」
 と溜息をつくと、また口を付けた。
 いつもとは違う乾の様子に、
「乾さん、お疲れのようですね」
 と裕子が言うと、
 「平沼さん、今日の授業に出られなくなったんですよ」
 とだけ言った。
授業時間以外に顔を見せる生徒の多くは、裕子の優しさに安らぎを求め、それはほとんどの生徒達が社会人であるが故だった。
 「マイクには伝えておきますが、お仕事がお忙しいのですか」
 「僕はここに来るのが楽しみだったのに。仕事と言えば仕事なのですが、明日、家を
新築されて引越しをする先生がいるので、今
日はこれから手伝いに行くんです」
 「大学病院の先生?」
 「そう、僕とは二歳しか違わないのに、僕