があるので、そこで降ろして下さい」
彼女は敢えて彼に言い訳はしなかった。
家に着くと、母は自室でテレビを見ながら眠ってしまったようだが、父亡き後、めっきり老いたその寝顔には涙の跡があった。
「母さん、また父さんのこと思い出していたのね。おやすみ」
裕子はテレビの電源を切り、灯りを消してから部屋を出た。
翌朝、彼女は寒さで目が覚めた。
「母さん、今日は寒いね」
裕子はパジャマに母親の手作りの半纏を着て居間のストーブの傍に座り込んだ。
「昨日も遅かったの? 母さん、待っていたけど眠ってしまっていたわ」
母親はグレープフルーツにたっぷりの蜂蜜を乗せ、テーブルに置いた。
裕子の帰宅時間が遅いのが、母親として心配の種のようだった。
「ほら、母さんに言ったでしょう。生徒さん達に誘われて少し遅くなるって」
「でもねぇ、近所の人達が、どんな仕事をしているのって聞くのよ」
「田舎はうるさいなぁ。私は仕事を一生懸命しているだけ」
裕子は母の言葉を引きずりながら洗面所に向かった。
冷たい水が生気を与えてくれ、鏡に映った、まだ水気の切れない顔に曇りはなかった。
苦衷
英会話スクールは市内の中心地にあり、デパートや商店街が隣接していた。
十二月に入ると、至る所クリスマスの飾り付けで一色となり、裕子もロビーにクリスマスツリーを飾った。
生徒達が楽しみにしているクリスマスパーティーは例年通り、第二土曜日に決め、すでにホテルの会場を予約していた。
彼女は今年初めて、ダンスの時間を組み込んだところ、生徒達は壁に張り出されたプログラムを見て良い反応を示してくれた。
特に入学して日の浅い女性達は、レッスン時間より早めに来て裕子に服装についてアドバイスを求めた。
彼女は敢えて彼に言い訳はしなかった。
家に着くと、母は自室でテレビを見ながら眠ってしまったようだが、父亡き後、めっきり老いたその寝顔には涙の跡があった。
「母さん、また父さんのこと思い出していたのね。おやすみ」
裕子はテレビの電源を切り、灯りを消してから部屋を出た。
翌朝、彼女は寒さで目が覚めた。
「母さん、今日は寒いね」
裕子はパジャマに母親の手作りの半纏を着て居間のストーブの傍に座り込んだ。
「昨日も遅かったの? 母さん、待っていたけど眠ってしまっていたわ」
母親はグレープフルーツにたっぷりの蜂蜜を乗せ、テーブルに置いた。
裕子の帰宅時間が遅いのが、母親として心配の種のようだった。
「ほら、母さんに言ったでしょう。生徒さん達に誘われて少し遅くなるって」
「でもねぇ、近所の人達が、どんな仕事をしているのって聞くのよ」
「田舎はうるさいなぁ。私は仕事を一生懸命しているだけ」
裕子は母の言葉を引きずりながら洗面所に向かった。
冷たい水が生気を与えてくれ、鏡に映った、まだ水気の切れない顔に曇りはなかった。
苦衷
英会話スクールは市内の中心地にあり、デパートや商店街が隣接していた。
十二月に入ると、至る所クリスマスの飾り付けで一色となり、裕子もロビーにクリスマスツリーを飾った。
生徒達が楽しみにしているクリスマスパーティーは例年通り、第二土曜日に決め、すでにホテルの会場を予約していた。
彼女は今年初めて、ダンスの時間を組み込んだところ、生徒達は壁に張り出されたプログラムを見て良い反応を示してくれた。
特に入学して日の浅い女性達は、レッスン時間より早めに来て裕子に服装についてアドバイスを求めた。
