愁歌

「マイク、女性陣の中でお好きな人の隣にどうぞ」
と続いて言うと、女性達から歓声が上がりマイクは頬を紅潮させた。
「平沼さん、飲み物は何が良いですか？それともお腹が空いていませんか」
柳井はメニューを広げ彼女に差し出した。
「真介は裕子に優しいね」
マイクが冷やかすと、
「そう、美人には優しいの。マイクのように女性にもてすぎる男性は全て僕の敵！」
柳井の言葉に全員が爆笑した。
生徒達は時々外国人講師を誘って食事や観光に出かけ、費用は彼等が出しているが、教室では得られない英会話の練習が出来るので負担に思っていないようだった。
彼等とは対峙するように、和歌山のような田舎では外国人と付き合うことに優越感を持つ人達があった。
英会話スクールでは授業料の高い個人レッスンを受ける生徒に多く、彼等の中には講師に高価な贈り物をすることで、親近感を深めようとしていた。
特にパトリシアが個人レッスンを好み、彼女が高価なプレゼントを贈る生徒の前で天使のように豹変する姿を見ると、裕子は日本人として憎悪を感じる時があった。
マイクは滞日を三年と自分自身決めているらしく、彼は日本人の友人との交流を大切にしていた。　
ただ入門クラスの生徒達とは仲が良く、中でも柳井とは友人としての付き合いもあるようだった。
エドワードは家庭があり、すでに彼には家族を含めての友人の輪が出来ていた。
「乾さん、クラスは楽しいですか」
裕子は、皆の話に笑みを返すだけの乾に言葉をかけた。
「楽しいクラスです。宴会部長の柳井がいますから」
二人は目を合わせて笑った
話題はいつしか裕子の乗務員時代のことに移り、矢継ぎ早の質問があったが、彼女は端的に答え話しの中心になることから遠ざかった。