ああ寒い。この世界には四季というものが存在しているのは知ってはいたが、こうまできついとは想定外だった。
 早く帰ってコタツに潜ってゆっくりとみかん食ってテレビ鑑賞でもしたいな……帰っちゃおうかな?
 へちっ
 ああ、くしゃみまで出ちゃったよ。これで風邪ひいたらどうしてくれる。心底冷え切った体は熱燗とかであったまらないと本気で風邪ひくな。

 今は夜。ビルとビルの間を光を避けて疾走していた。
 ただでさえ気温が低く体温を奪われがちだと言うのに、自ら冷風を浴びるような行動に嫌気がさす。
 だからといってそれを止める事も出来ないから、こうして愚痴を吐いているわけだが。
 早く用件を済ませて家に帰りたい!!
 その願いを受け入れたのかどうなのか……探し求めていた”モノ”が横切り、闇へと溶け込もうとしていた。
 それを見つけ、俺は嬉々として叫んだ。
「いた! 美弥子ちゃん!! あれを捕まえるんだ!!」
「あれを捕まえるんだ。じゃなぁ~~~~~い!!」
「へがっ」
 脳天直撃。
 白い火花が目の前をチカチカ煌めいた気がする。
「私をちゃん付けで呼ぶなと言ったでしょう!!」
 アニメ声の甲高い声が空から降ってくる。その声を発した人物へと目を向けると、ギッと音が聞こえそうなほど目を吊り上げて俺を見ていた。
「な、何もロッドの鋭角部分で殴らなくても……」
 いまだに痛さのあまりに地面に体中を痙攣させて悶える。
 その俺が目にしたのは、彼女の鋭い眼光の他に、右手に収められた鈍器。
 ……いや、頭に刺さった感覚があるから鈍器とは言い切れないか。
「かなり有効的に使えたと自負しております」
「別な場所で有効利用することを望みます」
 ふんっ。と鼻息荒く告げる彼女へそう望めば「善処します」とい返ってきた。明らかにまた繰り出される気がしてならない。