「ルーイ」

「ハ、ハイいい!」

 宿の人の足音がドアの向こうで消えていく。それを見計らってかキティがオレの名前を呼んだ。

 なんでオレがこんな怯えなきゃなんないんだよ、何もしてないのに!

 それでもおっかないもんはおっかない。

「夕食は済ませたのかい?」

「…ハイ」

「そうかい。ひとりにして悪かったね」

 何をするかと思えば頭を撫でられた。しかも笑顔で。

 なに、笑ってるのにこの圧力。

 恐怖に目をそらして男二人を見る。二人とも座ってこそいたが目の前に置かれた夕食に手をつける様子はない。

 何があったんだ、本当に…。

「何があったのか聞きたくてたまらないだろう、ルーイ」

「え、そ、そうですネ…」

 思わず敬語。怖すぎて。

「食べながらでかまわなければ話してあげよう」

「お、お願いしマス……」

「で?そこの馬鹿二人はなに固まってんだい。せっかくの夕食が冷めちまうじゃないのさ。サッサと食べな」

 キティがバンッとテーブルを叩いた。二人は弾かれたように食器に手をのばしている。

 味、わかんねぇだろうなあ…。

 リグレイはあの顔だ、案の定しみるのかスープを飲んで顔をしかめていた。

 キティはサラダを早々にたいらげて"まったく…"とこぼしながらフォークを置いた。

「ばらしやがったんだよ。馬鹿なことに自分たちがアタシの"仲間"だってね!」

「……正確にはバラしたんじゃない、バレたんだ」

「お黙り!ヤツに知れたんだ、どっちにしろ同じことだよ」

 バンッとまたテーブルが音をたてる。

 言っちゃ悪いがシュンとしてポテトサラダを口に運ぶイッシュは男の俺から見ても可愛かった。

「"ヤツ"…って?」

 まさか。

「師団の人間だよ。大の男がまんまとお子さまな罠にかかって、あの場にいなかったルーイのことさえもバレちまったのさ」

 あー、だからイッシュはさっきオレに謝ったのか。

 "仲間"だってバレた以上、いつ殺されても文句は言えない。"仲間"になるって決めたのは、他の誰でもなくて、オレ自身だから。

「…でも、収穫もあっただろう……」

 何を食べるにもしみて仕方ないんだろう、あきらめたのかスプーンを投げるように置いたリグレイの目は死んでいた。

 今日の夕飯のメイン、チーズドリアだもんな。熱いよな。そりゃしみるわ。