それでも駄々をこねるかのように騒ぎ続けるガキの声に重なって銃声が響いた。もちろん俺は撃っちゃいない。ガキがキレて発砲したのか、それとも別の…。

「遊び足りないってのかい。だったらアタシが遊んでやるよ、赤いの。ただし、命の保証はしてやれないけどねぇ」

 聞き慣れつつある、昔よりも凄みを増した女の声。

「キティ、」
「アンタたちへの説教はあとだよ。イッシュ、リグレイ」

「はあ!?なんで説きょ、」
「解らないかい?こんなガキの浅知恵に引っかかって、よくもまあ…。まあ、いい。言ったろ?説教はあとだ、アンタはアタシの用が済むまで、そこで黙って見ているんだ。イッシュも解ったね」

 さすがの色男も怒ったキティの前では形無しらしい。顔を強ばらせてコクコクと頷くだけ、反論はしない。いや、男前が怯えてりゃあ怯えてたで女は可愛いだのなんだのと騒ぎ立てるだけなんだろう。

 俺も、それ以上は言われた通り黙っていた。女ってのは本当に怖い生き物だ、特に怒らせると。昔はもっと可愛らしかったのに、なんて口が裂けても言えない。

 "罠だとわかったところで、お前は心配せずにはいられなかった"なんて、もっと言えない。

「さて、赤いの。ところでアンタはアタシがずっとアンタをつけていたことに気づいてたかい?」

 二丁銃が赤髪に向けられた。赤髪は引き金の部分に親指を引っ掛けたままぶら下げるように銃を持ち、降参のポーズをした。

「え……嘘っスよね?」

「気づいてなかったってのかい。やっぱりアンタ、まだまだ青いね」

「まあ、髪と銃は赤いけど…」

「馬鹿なことを言ってないでサッサと"条件"を提示しな。撃つよ」

「わ、ちょ、なんでそんな機嫌悪いんスかぁ~!言います!!今ちゃんと言いますんで!!!」

 なんだ、この茶番は。

 思わずイッシュと顔を見合わせた。

 端から見りゃあ仲よさげにも見えんぞ、コイツら。気にいらねぇな。

 俺がイライラしている間にも二人のやりとりは続き、その間、ガキがポケットから何かを取り出した。

「リボン…?」

 キティがガキに向けていた銃口を降ろした。

 ガキはと言えば、ここぞとばかりにニヤリと笑う。真っ赤なリボンを手にして。

「姐さん、このリボンをどこでもいいんでつけてください。俺も同じようにします。んで、まあテキトーに戦って、先にリボンを取られた方が負け」