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「安心おし。言っただろう?"刺客の提示する条件をクリア"すればいいって。何もみんながみんな殺し合いを条件として出してくるとは限らない」

「にしても、"グレイ師団"ねぇ。"国王陛下お抱え"って言うわりに今まで俺が知らなかったってのも、おかしい話だ。"白狩り"のときは、そんな名前の軍隊、なかっただろ?」

 まるで自分が軍人であるかのような口振りだ。

 元軍人か、あるいは現役の軍人なのか。いずれにせよ、この男が軍の関係者だと言うのなら酒場の前でのあの殺気にも納得できる。

「無理もないよ。グレイ師団は"白狩り"のときに動いた軍隊とは全く別物だからね。編成自体は前から行われていたけど、表立って動いたことは、まだ一度もない」

「なるほど、そりゃあ俺も知らねーわけだな」

 俺も自分なりに"白狩り"について色々調べては来たが、"グレイ師団"なんて軍隊の名前は今まで聞いたことがなかった。表立った動きがないのなら確かに無理もない。これで疑問のうちの一つが晴れた。

「まあ、"オオカミ計画"のための軍隊、と言ってもいい。"白狩り"からの古参の兵もいるっちゃいるが、ほとんどはアタシなんかの世代の若い連中だよ。刺客が送られてくるはずの大きな都市以外でも、道中襲ってこないとも限らない。いいかい?気は抜かないどくれよ」

 三人、無言で頷いた。

 沈黙を恐怖として受け取ったのかキティはケラケラと笑って訂正を入れるように付け加えた。

「って言っても、今の段階じゃあ誰がアタシの"仲間"になったかなんて師団の連中にはわからないからねぇ。しばらく間は安全だよ。さあ、師団については、これくらいでいいだろう。イッシュ、二つ目は?」

 実を言えば今から訊くことが一番訊きたかったことだ。

 俺が殺した、あの男。両親の仇。

「……右目の下にカラーコードのある男を知らないか?」

「右目の下…ねぇ。ソイツは、」
「俺の両親を殺した男だ。シュリーという女のような灰色の軍服を着て数字のバッチを身につけていた。殺したつもりでいたが何せ十年前だ、確認をしたわけでもないしまだ生きているかもしれない」

 キティが問うより先に、一気にまくし立てた。

 驚いただろうか。

 その男が本当に死んでいたとしたら俺はわずか九歳にして人を殺めたことになる。

 何も答えないのを不審に思って顔色を窺った。

 予想に反してキティの表情には感情はにじんでいない。