vivid

 ルーイとキティはにらみ合うようにして数秒間、互いに視線を逸らそうとはしなかった。

 結局、折れたのは溜め息を吐いたキティの方だった。

「ものは言いよう、だねぇ。まあ、よく言ったよ。ボウヤと呼ぶのは、もうやめにしよう」

「じゃあ、オレ"仲間"入りな!」

「ああ。ただし、自分の身くらいは自分で守りな。甘ったれてもらっちゃあ困るよ」

「へーい」

「顔のわりに意外と言うじゃねーか、ボウズ。安心しろ、俺が守ってやるよ」

「は!?ちょ、やめ…っ、離せよ!さっきっから思ってたんだけど、あんたマジ馴れ馴れしい!!守られたくなんかねーし!」

 少しだけ誇らしげな顔をしたルーイの髪をリグレイがかき回した。じゃれ合っているようで微笑ましいと言えば微笑ましい光景なのかもしれない。

 もしかしたらこの男、子どもがすきなのかもしれない。変な意味ではなく純粋に。自然に弛んでいるのであろう表情は悪人のそれには見えなかった。

 それでも俺は、あのときの殺意を忘れはしないが。

「それで?アンタは、どうするんだい?イッシュ。"約束"も、まだだったねぇ」

 体はルーイの方に向けたまま、キティはさも愉快だとでも言いたげな顔を俺の方へと向ける。

 その言葉を待っていた俺はルーイのように指を二本立てた。

「俺の訊きたいことも二つだ」

「おや、案外少ないんだねぇ」

「ルーイが訊いた分と、かぶっていたからな」

「そうかい。それで?」

 聞く気になったのか体を俺の方へ向けて頬杖をつく。

 促されるままに人差し指だけを立てた。

「一つ目、"グレイ師団"というのは一体なんなんだ?そんな軍隊の名前、俺は今まで聞いたことがない」

 ルーイをからかって遊んでいたリグレイがピタリと止まった。ルーイも同様に、話の内容に興味を示したのか身を乗り出している。

「それ、イエローに着く前にイッシュが言ってたヤツだよな?」

「"グレイ師団"…?俺もそれは初耳だ。キティ、」
「ああ、ああ、わかった。師団についてはあとで説明しようかと思ってたんだけどねぇ。この際だ、全部話すよ」

 諦めたように溜め息を吐いたキティは自分の目の前にあるマグカップと俺の目の前にあるマグカップの間の空間をコツコツと爪でつついた。