肩に置かれた手が移動して頬に触れた。

 冷たい。ヒヤリとした感触に身を固くしてしまう。

「まずは一緒にイエローへ行こうじゃないか。詳しいことは、それから話す」

「詳しいこと…?」

「ああ。アンタ不思議に思わなかったのかい?なぜアタシがアンタを尾行していたのか」

「あ…」

「おやおや、肝心なとこで、お間抜けさんなんだねぇ。アタシを疑ってかかったところまでは悪くなかったのに」

 確かに。返す言葉もございません。

 口ごもるオレを見て満足したのかキティは意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 頬にあった手が握手を求めるように差し出される。

「兎に角、アタシについておいで。そうしたらアンタの記憶も戻るかもしれない」

「マジで!?」

「"かも"って言っただろう」

「そんな曖昧な…」

「強制はしない、アンタ次第だ」

 オレはキティの手を見て、次にイッシュの顔を見た。今更、迷うことはないだろうとは自分でも思ったけど、それでも、どこかに言いようのない不安があったのかもしれない。

 イッシュはオレの視線を受けて、ゆっくりと頷いた。

 頷き返しながら改めて思い返した、死に際のジィちゃんの言葉。

"イエローに行きなさい。そしてキティを探すんだ"

 ジィちゃんは初めから、こうなるってわかってたんだろうか。

 キティの言う"詳しい話"の内容も、なぜオレを尾行していたのかも気になる。

 手をとらない理由はない。

 オレはキティの華奢な手をとった。

 でも素直に握手してやるには、なんだか少し悔しい気持ちもあって、憎まれ口の一つでもきいてやろうと努めて意地の悪い笑みを浮かべた。

「よろしく、キティ……にしても、あんたみたいな女に"Kitty"って似合わない名前だな」

 てっきり怒るもんだと思っていた。

 でも違った。

 キティは緩く握られていたオレの手を自分の口元へと持っていった。まるで紳士が淑女に、そうするように。

 オレの手には赤い口紅がついた。おまけに顔まで赤くなったのだった。

「よく、言われるよ」

 そのときのキティの笑顔には、なんの含みもなかった。なんかちょっと可愛いな、とか思ったなんて口が裂けてもオレは言わない。

 なんとなく、この先が思いやられた。