本人曰く"手加減"をして一丁の銃のみで戦う女に対してシュリーという女は長い鞭のようなものを手にしていた。

 二つに高く結い上げた髪、ほんのりと色づいた頬、ぱっちりとした目元。見た目にそぐわない武器を使う女だ。鞭なら、どちらかといえば、もう一人の女の方が似合うような気がする。

「でも、まあ、"手加減"なんて、そんな甘いことも言っていられないか。なにせアタシは、あと三日で城に帰らなきゃならないからねぇ。まったく時間が惜しいよ」

「自分で言ったくせに~」

「シンアイなるヘーカの癇癪持ちには、もうウンザリなんだよ」

「それも、きっと愛なんだよ~…って、わわっ」

「お喋りは終いだよ、シュリー。舌噛まないように口閉じときな」

「ええっ。顔は勘弁だよ~?」

 ひとつの銃声のあとに、また銃声。

 標的は踊るように身を翻す。

 地についていた鞭がシュルシュルと蛇のように、うねり始めた。

 一丁銃が地を蹴る。

 獲物を狙う蛇のように鞭が女の足に向かって伸びていく。が、女の跳躍力に鞭は、あと一歩及ばない。

 次に鞭の使い手を見たときには既に一丁銃が目の前に現れていた。

 ……速い。

 息を飲んでいる間にも蛇は目の前の獲物を捉えようとする。しかし獲物は素早く着地し地面に這いつくばるのだ。

 なるほど確かに猫のようだ。高い所から飛び降りた猫そのもののように見える。

 縮んだバネが再び伸びあがるかのように地に伏した猫は飛び上がり蹴りを一発、足を払って今度は相手の背を地へと落とす。

 それだけでは終わらない。腹に馬乗りになり悲鳴をあげかけた口に銃口をねじ込んだのだ。

「んんんっ」

「だから言っただろう?"口閉じときな"ってね」

「ぷはあっ、げえぇ。火薬の味がするぅ」

「そりゃあ、よかった」

 猫は満足げにフンッと鼻を鳴らした。服についた土を払いながら立ち上がる。鞭を取り落とした手を掴んで今しがた押し倒したばかりの相手をも立ち上がらせた。

「はぁーあっ、かなわないなあ、ネコちゃんには!」

「いい勉強になったんじゃないのかい?次からは勝てもしない喧嘩は売らないことだよ」

「はぁ~いっ。でも楽しかった~」

「いいかい、"三日後"だ。ちゃんと伝えておくれよ?」

「りょうかーい!遊んでくれて、ありがとね~。バイバイ、ネコちゃんっ」