「もう一度、言うよ。アンタは、おかしいとは思わないのかい?」

「だから何が、」
「カラーコードは同じでも、目の色も髪の色も顔かたちも性格も、ひとりひとり違うだろう」

「……」

「カラーコードが違っても同じだよ。ひとりひとり、違う。みんな、違う」

「………だったら、なぜ、」
「十年前なぜ"白"だけ迫害されたのか、不思議でしょうがないだろう?おかしいと、そう思うだろうさ」

「……ああ、そうだな。俺の人生は十年前から疑問だらけだ」

 おかしい、なぜ、どうして。

 十年前、家族を失ってから……いや、奪われてから、答えの出そうもない質問を誰にするでもなく自分の中で延々と繰り返してきた。

 "白"だからというだけで、なぜ迫害されなくてはならないのか。知ろうとしたこともあった。しかし、やはり答えが見つかることはなかった。

 "答えがない"

 それが、この十年間で得た俺なりの答えだった。

 それが今は、どうだ。この女、何かを知っているに違いない。俺は答えに近づけるかもしれない。十年前の真実を、聞くことができるのかもしれない。

 女の黒い指先が、摘んでいた緑の葉を離した。

 溜め息を吐いたのだろう、肩の辺りに生暖かい空気を感じた。

「でも、もうこれからは、きっと"白"だけじゃあない。他の色も、ある意味じゃあ"白"の仲間入りさ」

 腹の辺りにあったはずの体温が、いつの間にか首に移っていた。黒い服や爪、髪とは正反対の真っ白な腕が緩く巻きつく。

 どういう意味だ?

 俺が口を開く前に女は続けた。内緒話をするように、俺の耳元で。

「一年後、この世界は一色に染まる」

「一色…?」

「ああ。残念なことにアンタとアタシのだあい嫌いな黒一色に、ね」

 "黒"

 まだ言われたことを理解仕切れないままの俺がオウムのように繰り返したときだった、女の腕は俺の首を離れ、そしてその手は俺の背中を突き飛ばした。

 この女の言動は全くもって理解し難い。
 文句の一つでも言ってやろうかと口を開きかけたが女の視線に目が止まって口をつぐんだ。

 女の視線は上にあった。視線の先には、どうやら人影が見受けられる。

 そのとき初めて、俺は僅かな殺気に気づいたのだった。


「見ぃーつけた、"二丁銃の子猫ちゃん"」