……………………。


…………………え。


…………………ん?





「…ぅえぇぇっー!!!?」


「騒がしいですよ」

「いやいやいや!!だって!!…だって……!!」


咄嗟に耳を押さえて眉間にシワを寄せる先生。


顔がやばい。きっと火だるまみたくなっててりんごなんてかわいい例えじゃ収まりきらない。


そんな顔を見せるわけにはいかなくて、思わず何も無いのに下を向く。



「……何を今さら照れてるんですか」

「照れるよ!!なんなのいきなり!!」





困るとか、人生狂わす気かとか散々言ってたくせに!!


そう怒鳴った声はかなり震えたけれど、原因の涙は悲しみじゃない。


興奮と喜びが混ざり合い、全身の力が抜けていく。



「それも考えたんです。生徒と教師が恋愛なんて、学校に知れたら大問題。ですけど」

「……ですけど?」



聞き返すと、先生は不敵な笑みを浮かべて聞き覚えのある言葉を愛しい声で囁いた。




「チクらないでしょ、志衣奈さんは」




それは過去に、何回も。


わたしの前で煙草を吸ったりゲームをしたりと、教師らしからぬ行為をする度口にしていた、あの言葉。




思えば私たちはお互いに。

校則違反のバイトをしたり、仮病で授業をサボったことも。




ずっと、隠して過ごしてきた。




……隠し事なんて、秘密なんて



もう、慣れっこじゃないか。






「ち、チクらない、絶対、絶対」

「助かります」



ニコリと。

今までの、口角が少し上がるとか、目を細めるとか嘲笑いとか、そんな笑顔じゃなくて。



優しい笑顔で視界がいっぱいになったかと思ったら。




口の中に、煙草の苦味が広がった。